このHPは、自家用軽飛行機「ハスキー」でアラスカを飛んだ飛行家の記録サイトです



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極北の既視感

撮影地:クック湾
撮影日:Sep. 2008

日本カメラ誌2010年9月号、表紙掲載作品

 こちらの海と向こうの海のコントラスト、ミニチュアのような手前の川。自分の持っていた遠近感が覆される不思議な奥行き感。空撮写真のおもしろさが凝縮されたようなこの作品はアラスカの南、北緯59°のクック湾の沿岸部をアンカレッジ目指して北上している時に撮影したものです。ゆったりとした地形が多いアラスカの北極圏などと違いアラスカ南部は起伏の激しい地形ばかりです。その理由は、いまだに数多くの氷河が残っているということに理由付けられます。いまだ浸食を激しく行っている氷河群により、アラスカ南部は激しく浸食されていますが、北極圏はすでに氷河はごくわずか残るばかりで、すでに浸食し尽くされた大地なのです。
 アラスカ南部を飛行していると、激しく割れる氷河、海にそびえ立つ断崖絶壁、人を寄せ付けぬ潮汐力による浸食など、大地の脈動がダイレクトで視界に飛び込んできて、それを俯瞰できる喜びは「何一つ定常なものなどない」というメッセージとなって、飛行家たちの魂を揺さぶるのです。

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Augustine Island

撮影地:Sleeping Lady南西部
撮影日:Feb.2007



 Augustine島は、アンカレッジの南西280キロ、クック湾にある溶岩ドームの火山島です。2008年アラスカの内陸部からイリアムナ湖を越えて海に出ると、いきなりエメラルドグリーンの火山島が出てきた時の驚きは忘れられません。パイロットは地図をチラ見しながら飛行していますが、洋上にある自分の飛行機と衝突する地形には無関心なものですから、まったくのノーマークだったのです。そうなると、この島へ接近したくなったものですが、さすがに洋上でエンジンが止まったら・・・と思うとそれはできませんでした。アラスカを飛ぶパイロットは常に自制を強いられます。それはアラスカの景色や行ってみたい場所が、常に危険をはらんでいるから・・なのです。
 どんなに美しいことや意義のあることをやったって、死んだらおしまいです。死んではいけません。ダメでいいから、生きて帰ってきて人生を楽しむのです。

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The dark side of spruce

撮影地:Sleeping Lady南西部
撮影日:Feb.2007



 ハスキーを購入して飛行した頃は、アンカレッジの冬でした。もちろん寒さは非常に厳しいので、地元の飛行家でさえ冬はほとんど飛行しません。それは小型機の暖房設備が貧弱であること、小型機のレシプロエンジンは、降下時に急激に冷やすとクーリングショックによりエンジン素材に悪影響を与えるという理由がありますが、「飛ぶなら夏」という暗黙の了解があるんでしょう。アラスカの飛行家は冬は積極的には飛ばず、冬眠しているような感じです。ですからアンカレッジの小型機専用の飛行場であるメリル飛行場は非常に閑散としたものでした。そんななか毎日のように喜んで飛行してた時に、この風景と出会いました。アラスカの冬は、太陽がほんの少し南の空をかすめるようにしか姿を現してくれませんから、日照時間は非常に短いのです。しかしながら夕日の時、太陽が沈む角度はとても浅いので、太陽は一気に沈まず時間をかけてじっくりと水平線にななめに落ちてゆきます。したがって夕日の時間は非常に長くなるのです(朝日も同じ)。地平線のぎりぎりを、かすめて動く太陽が作ったこの長い影、これがアラスカの冬の魅力のすべてといっても良いでしょう。この長い影を目で追いながら、真っ白な大地の上をひとり旋回をしていると、神の存在も否定できない心境になったものでした。

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Anaktuvuk pass village

撮影地:Brooks range
撮影日:Aug.2008

ナショナル・ジオグラフィックス誌掲載作品


 2008年の8月下旬、アラスカ北極圏の村々を尋ねて飛行旅していたときに訪れた「アナクトブック・パス」という村を俯瞰した作品です。アラスカ北極圏には村が十数個ありますが、その中でもブルックス山脈中に存在する村は、ここアナクトブックパスだけ(*1)です。それだけに、この村の周囲は鋭鋒や丘陵などさまざまな山岳景観に取り囲まれた美しい場所で、始めてこの周囲を飛行した時は「なんて神々しい村なんだろう・・・まるで天上世界だ」と操縦席でため息をつくほどの感動を覚えた記憶があります。
 しかしながら、「美しいものは危険」とはこの世の常であり、アナクトブックパスへの道中、すなわちブルックス山脈での飛行は常に雲との戦いとなります。気を許して適当に飛行していると、自機は山脈中の谷を被う低い雲に覆われて迷い山に衝突するという事もあり得るので、気を抜くことは絶対に許されません。実際、過去の歴史の中でブルックス山脈に散っていった凄腕のブッシュパイロットは沢山います。そして私は山脈中を飛びながら、彼らの死についてこう思うのです。「ブルックスで死んでいったブッシュパイロット達は、この山の美しさに惹かれて吸い込まれるように死んでいった」のではないかと。ギリシャ神話に登場する「セイレーン」の歌声を聞いた船乗りの船は必ず沈没するように・・・ブルックスの山の美しさに見とれて死んでいったのではないかと。俗世からかけ離れた天上山脈を飛行するパイロットにとって、この村はそんな死の幻想から目覚めさせてくれる確かな地上の安堵として存在する、、そんな気がしてます。
*1:Arctic villageもそう見えるけど、実際に飛んでみると山脈は終わりかけてます

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Tip of blue

撮影地:チュガッチ山脈
撮影日:Nov.2006




 アラスカの氷河上を飛行している時に、ふと望遠レンズを使って撮影した時の氷河表面の写真がこの作品です。氷河上空を飛んでいると、実は氷河には2つの顔があることを知ります。1つは、大きな流れとしての氷河の遠景。高度を山の高さより遙か高く上げると、氷河の流れは川の流れと全く同じように、山脈の谷を流れているのが分かるのです。そして二つ目は、氷河の表面ぎりぎりを飛行している時に分かる、刺々しい表面を露わにするまるで針のムシロのような氷河。一つ一つの氷河は人の背丈を遙かに超える高さで乱立しており、そのスケール感が分からないほどこの世離れした光景です。ですから氷河の上を歩くなどまず無理でしょう。生物を寄せ付けぬ緊張感に満ちた世界が、氷河の表面上にはあるのです。

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山岳雲

撮影地:チュガッチ山脈
撮影日:Feb.2007




 2月のアンカレッジにあるメリル飛行場から東へ飛び立つと、すぐにチュガッチという巨大な山脈がそびえています。アンカレッジから東は人も住まぬ大氷河山岳地帯。その長さは、ひとまず次の街であるバルディーズまで200キロを超えており人間の行動限界を超えています。飛行機であれば、ある程度の時間でこの巨大山脈を巡ることが出来ますが、冬はひとたび天気が荒れると大変に危険な場所と化します。作品は風が徐々に強くなりつつあるところに雲が発生した稜線をとらえています。操縦席から窓を開けて、撮影すると非常に冷たい風が吹き付けて、カメラを握る指はおろか心臓までもその脈動が遅くなるような感覚を覚えます。アラスカの冬はひたすら寒さとの戦いなのです。

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